「亡くなった方(被相続人)の預金口座は凍結されて簡単に引き出しが出来ない」と聞いた方も多いかと思われます。
これは最高裁判所の判断でもあり、
「正式に遺産分割が終了するまでは預貯金の引き出しが認められない」 とされていたのです。
平成30年の税制改正
しかし、そうなると被相続人の葬儀費用など、急な支払いへの対応が困難となります。
そういった事情が考慮され、「相続された預貯金について、相続人全員の同意がなくても、遺産分割協議前に払戻しが受けられる制度」が法改正によって新設されることとなりました。
これによって遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるようになります。
制度の種類
この預貯金の仮払い制度は、次の二つの手続きにより利用することができます。
①家庭裁判所に申し立てる
家庭裁判所に預貯金の引き出しを申し立てる場合は、まず、遺産分割の調停または審判を申し立てる必要があります。そのうえで、引き出しが必要な理由を示して預貯金の仮払いの申し立てを行います。
◆ メリット
引き出し額に上限がないため、申立額の範囲内で必要性が認められれば、
特定の預貯金の全部を取得することもできる。
◆デメリット
家庭裁判所への申立てなど煩雑な手続きをしなければならないので、急な葬儀費用の支払いなどには適していない点や、相続債務の弁済のためなど、預貯金の引出の必要性を証明しなければならない点がデメリットといえます。
②金融機関に申し立てる
上記のような煩雑な手続きが不要な簡便方法として、金融機関の窓口で直接引き出すことが可能となります。
一定の金額までであれば、他の相続人の同意がなくても被相続人の預貯金を引き出すことができます。
引き出し額の算出方法は以下の通りです。
相続開始時(被相続人の死亡時)の預貯金残高(口座ごと) × 1 / 3 × 引き出しを申し出る人の法定相続分(上限は金融機関ごとに150万円)
金融機関に申し立てる場合の具体例
相続人は配偶者と長男
死亡時の預金残高が900万円
引き出しを申し出る人が配偶者であった場合
預金残高900万円×1/3×1/2(配偶者の法定相続分)=150万円 となり、
この例であると150万円が引き出し可能額となります。
◆ メリット
裁判手続きが不要なため、費用と時間が節約できる
◆デメリット
引き出し額に上限がある
ただし、比較的時間がかからない金融機関の窓口で請求をするこの方法でも、
払戻しの請求をする相続人の相続分を金融機関に証明するために、戸籍謄本の取得や相続人関係図などを作成し、法定相続人の数を明らかにする必要があるためご注意ください。
改正法の施行日
預貯金の仮払い制度については、2019年7月1日から施行予定です。